悴むアタマ

創作 気分転換 毎日更新できたらいいねって。

私を拾ったおねえさん

「おい、お前」

 

初めて地上の人間と目が合った。

綺麗な恰好をした、気の強そうな顔をしたおねえさんだった。

今が昼なのか夜なのか全くわからない、そんな地下室で私は微かに光を見た気がした。

 

「じゅう、にじゅう、さんじゅう…」

いつも私にご飯をくれる男が、目の前で紙切れを数える。

「はい、ちょうどいただきました」と、男は檻の鍵を開けた。

おねえさんはかがんで背の低い入口からぬるっと手を伸ばし、私の腕をつかむ。

 

「ほっそい腕だなあ…」

そう言っておねえさんは私の手をとり、ゆっくりと檻の外へ連れ出してくれた。

 

雲一つない、黄色びた空。

風にふかれる草木の音。

鼻奥を通る冷たい空気。

久々に見る地上の眩しさに戸惑いながら、

私はおねえさんに手を引かれ歩き続ける。

どこに向かっているのか分からない。

 

「おねえさんは何で私を選んでくれたんですか」

 

私はお世辞にも体が丈夫とはいえない。

私を買ってもいいことなんてなかろうに。

それに、もっと綺麗な顔立ちの子もいた。

 

「あの檻の中で一番、大人が嫌いそうな顔してたから」

 

「…」

 

黙ったままの私をよそに、

おねえさんは話を続ける。

 

「大人が嫌いなまま大人になってほしくないんだよね、」

「なんで人は保健所から犬だの猫だの引き取るのに子どもは引き取らないんだろうね」

 

「…子どもは生めるから、じゃないでしょうか」

 

おねえさんは突然歩くのをやめ、

私の前にしゃがみ込んだ。

 

「…じゃあ、子ども欲しい人ってなんで欲しいんだろうね、」

「胸を張って、うちの子を幸せにしてみせます!って言えるのかな」

 

私の冷たい頬を、おねえさんの温かくて柔らかい手が包む。

 

「自分の幸せのために勝手に生まされてさ、それで上手くいきませんでしたなんて、ほんといい迷惑だよな」

 

おねえさんは残念そうな顔をしながら、

私の頰肉を寄せたり伸ばしたりし始めた。

きっと私の顔で遊んでいるんだろう、

それでも不思議とそれが嫌じゃなくて。

私の喉の奥が熱を帯び始める。

 

 

「…私は君を幸せにするからね」

 

そう言ってお姉さんは恥ずかしそうに笑う。

私も恥ずかしくなって、思わず目を逸らす。

おねえさんは立ち上がって、さっきまで歩いていた方向へ視線をやった。

 

「幸せじゃない子どもが目の前にいたら、笑顔にさせるしかないでしょ、」

「私は子どもを産まなくても人を育てられるし、そこから自分の幸せを見出すんだ」

 

そう言うおねえさんの横顔は凛々しくて、目がキラキラしていて。

ただただ綺麗なそれに私は目が離せなかった。

 

 

 

 

私は自分を生んだ大人が嫌いだ。

そんな大人で溢れたこの世界も嫌いだ。

 

 

 

でも、おねえさんだけは信じてみようと思った。

 

私達が向かう先。

 

それは--。